理学療法士(PT)は、けがや病気、加齢などによって低下した身体機能を回復・維持・改善する専門職です。患者一人ひとりの状態を評価し、その人が再び日常生活や社会活動を行えるよう支援します。そのために理学療法では、さまざまな身体機能を対象に訓練や指導を行います。ここでは、代表的な「関節可動域」「筋力」「バランス」について紹介します。
まず重要なのが**関節可動域(Range of Motion:ROM)**です。関節可動域とは、関節が動かせる角度の範囲のことを指します。関節が固まったり痛みが出たりすると、動かせる範囲が狭くなり、日常生活に支障が出ます。例えば肩関節の可動域が低下すると、髪をとかす、物を棚に置くといった動作が困難になります。理学療法では、ストレッチや関節モビライゼーション、温熱療法などを用いて関節の動きを改善します。早期からの訓練は拘縮(関節が固まること)の予防にもつながります。
次に**筋力(筋肉の力)**です。筋力は、身体を支えたり動かしたりする基本的な要素です。病気やけが、安静が続くことで筋力は容易に低下し、立ち上がりや歩行といった動作が難しくなります。理学療法では、個々の筋肉を対象とした筋力トレーニングや、日常生活動作に近い形での機能的な運動を通じて筋力を回復させます。単に力を強くするだけでなく、左右差や全身のバランスも考慮しながら計画を立てることが重要です。
そしてバランス能力も欠かせません。バランスとは、身体が倒れないように姿勢を保つ能力のことです。立つ・歩くといった動作では、筋力や感覚、神経系の協調が複雑に働いています。バランス能力が低下すると転倒の危険が高まり、高齢者では骨折や寝たきりにつながることもあります。理学療法では、不安定な場所での立位練習や、片脚立ち、歩行練習などを通じてバランス機能を高めます。
このように理学療法は、関節可動域・筋力・バランスなどの基本的な身体機能を総合的に評価・訓練することで、生活動作の自立や社会復帰を支援します。単に運動をするのではなく、機能の背景にある身体の仕組みを理解し、一人ひとりに合ったプログラムを立てることが、理学療法士の大切な役割です。