骨粗鬆症の薬物治療の主な目的は、骨折を予防し、患者の生活の質(QOL)を維持・向上させることです。多様な病態に対応するため、骨吸収抑制薬、骨形成促進薬、カルシウム・ビタミンD・ビタミンK製剤など、様々な選択肢があります。
主な薬物治療の選択肢と効果は以下の通りです。
• 骨吸収抑制薬: 破骨細胞による骨の吸収を抑え、骨量の減少を防ぐことで骨折リスクを低減します。
◦ ビスホスホネート薬:骨粗鬆症治療の中心的薬剤です。アレンドロネート、リセドロネート、ミノドロン酸、イバンドロネートなどが含まれます。骨密度を増加させ、椎体骨折、非椎体骨折、大腿骨近位部骨折の抑制効果が多くの薬剤で証明されています。経口剤には毎日、週1回、月1回服用するものがあり、注射剤(点滴や皮下注)も選択可能です。消化器症状などの副作用に注意が必要です。
◦ SERM(選択的エストロゲン受容体モジュレーター):ラロキシフェン、バゼドキシフェンなどがあります。骨密度を増加させ、特に椎体骨折の抑制に効果があります。
◦ デノスマブ:強力な骨吸収抑制作用を持つ抗RANKLモノクローナル抗体です。骨密度を著しく増加させ、椎体骨折、非椎体骨折、大腿骨近位部骨折のすべてにおいて高い抑制効果を示します。
• 骨形成促進薬: 新しい骨の生成を促すことで骨量を増やし、骨質を改善します。
◦ 副甲状腺ホルモン(PTH)薬:テリパラチド(遺伝子組換え、酢酸塩)などがあります。骨密度が著しく低下している重症の骨粗鬆症や、すでに骨折が生じている患者に用いられます。骨密度を顕著に増加させ、椎体骨折、非椎体骨折(遺伝子組換えのみ)の抑制効果が確認されています。投与期間には上限があります。
• カルシウム・ビタミン製剤:
◦ 活性型ビタミンD3薬:アルファカルシドール、カルシトリオール、エルデカルシトールなどがあります。腸管からのカルシウム吸収を促進し、骨密度を増加させ、椎体骨折の抑制に効果を示します。エルデカルシトールは、従来のアルファカルシドールよりも優れた骨密度上昇効果と椎体骨折抑制効果が報告されています。
◦ ビタミンK2(メナテトレノン):骨の形成に関わる作用を持ち、骨密度増加と椎体骨折の抑制が報告されています。
◦ カルシウム薬:骨の重要な構成成分であり、他の薬物治療と併用されることが多いです。単独での骨密度上昇効果はわずかですが、骨折予防の基礎として重要です。過剰摂取には注意が必要です。
• 疼痛緩和を目的とした薬物:
◦ カルシトニン薬:エルカトニンやサケカルシトニンなどがあります。骨粗鬆症に起因する急性疼痛、特に椎体骨折による痛みの緩和に有効性が証明されていますが、慢性疼痛への効果は限定的です。
治療薬の選択は、患者個々の骨折リスク、骨代謝の状態、既存の疾患、生活習慣などを総合的に評価した上で行われます。また、服薬遵守率が治療効果に大きく影響するため、患者への丁寧な説明や継続的なモニタリングが非常に重要です。重症例や骨折リスクが高い場合には、複数の作用機序を持つ薬剤を組み合わせる併用療法や逐次療法も検討されます。