変形性股関節症の診断には、主に単純X線検査とMRI検査が用いられ、これらによって病状の違いや重症度を評価します。
診断手順の概要
変形性股関節症の診断は、腰背痛などの症状を持つ人や健診で精密検査が必要とされた人を対象に、以下の手順で進められます。
1. 医療面接(病歴の聴取)
2. 身体診察
3. 画像診断(X線、MRIなど)
4. 血液・尿検査(骨代謝マーカーなど)
5. 骨評価(骨密度測定、脊椎X線撮影)
6. 鑑別診断
7. 原発性骨粗鬆症の診断基準の適用
単純X線検査での診断
単純X線検査は、変形性股関節症の診断において最も基本的かつ中核となる画像検査です。
• 評価項目: X線所見で特に重要なのは関節裂隙(関節の隙間)の狭小化です。その他にも、寛骨臼(かんこつきゅう)形成不全の程度、骨頭と寛骨臼の位置関係(亜脱臼、脱臼位など)、骨構造の変化(骨硬化、骨嚢胞、骨棘、臼底肥厚など)、骨頭変形の有無などが評価されます。
• 重症度との関連: 関節裂隙の狭小化は、病期の進行に伴い可動域の減少や股関節痛の増強と強く関連するとされています。
• 限界: 単純X線所見のみでは股関節痛の有無や程度を判断するのが難しい場合があります。特に、骨棘形成などの増殖性変化が見られる症例では、疼痛が改善したり変化しないこともあります。また、若年男性ではX線所見上病期が進行していても股関節痛が認められない場合もあります。正確な診断には、正面像に加えて側面像など多方向からのX線評価も推奨されます。
MRI検査での診断
MRI検査は、単純X線検査では描出が難しい以下の病変を評価でき、変形性股関節症の早期診断や進行の観察に有用とされています。
• 関節軟骨損傷: 関節軟骨内のコラーゲン配列や水分含有量の変化を評価できるT2マッピング法などが用いられ、軟骨損傷の増悪を反映すると考えられています。
• 関節唇(かんせつしん)損傷: 関節唇の断裂、剥離、不明瞭化、消失などの所見を早期から把握できます。関節唇損傷は寛骨臼形成不全における疼痛の原因となりうる重要な因子です。寛骨臼形成不全股のほとんどで関節唇損傷が認められ、損傷の程度は寛骨臼形成不全の程度と相関し、関節症の進行リスクを著しく高めます。
• 海綿骨内の骨髄浮腫像: 骨内部の病変の広がりを捉えることができ、臨床評価スコアと相関することが報告されています。
• 鑑別診断: MRIは、骨粗鬆症性骨折の早期診断や、悪性腫瘍による病的骨折との鑑別にも非常に有用です。大腿骨頭壊死症との鑑別にも重要です。
その他の画像検査
• CT検査: 単純X線検査よりも詳細な股関節の骨形態を立体的に評価できます。関節裂隙幅の狭小化、骨棘形成、骨嚢胞の大きさや局在をより正確に評価できます。股関節外転筋群の体積や変性も評価可能ですが、放射線被曝の問題を認識し、必要性を十分に検討することが重要です。
• 超音波検査: 近年普及してきたツールで、股関節内の液体貯留、滑膜増生、関節唇損傷の有無、骨棘形成などを評価できます。ただし、関節裂隙の狭小化や関節軟骨の変性所見を直接評価することはできません。
重症度分類と進行のメカニズム
変形性股関節症は多くの場合進行性であり、前股関節症 → 初期 → 進行期 → 末期へと段階的に進行します。
• 進行予測因子: CE角(股関節の骨頭被覆の指標)が小さい(15°未満、特に10°未満)、50歳以上の年齢、股関節痛の存在、寛骨臼形成不全などが進行の予測因子とされています。肥満も股関節症発症の危険因子であり、進行を助長する可能性があります。
• 病態の進行: 関節軟骨の変性や摩耗が進行し、関節裂隙が狭小化します。関節唇への荷重負荷増大や関節唇損傷が、病期の非常に早い段階から観察され、進行リスクを高めます。
これらの画像診断を組み合わせることで、変形性股関節症の正確な診断と病状の把握が可能となり、適切な治療方針の選択につながります。