変形性膝関節症は、膝関節に痛みや機能低下を引き起こす進行性の疾患です。単に関節軟骨だけでなく、軟骨の下にある骨組織、靭帯、関節包、滑膜、関節周囲の筋肉といった関節全体に影響を及ぼします。
国際変形性関節症学会(OARSI)の定義によると、変形性関節症は「関節への微小外傷やストレスによる細胞や基質の破壊が特徴であり、修復が不十分なために分子レベルの代謝異常から解剖学的・生理学的破綻(軟骨変性、骨リモデリング、骨棘、関節炎、関節機能低下)が生じる疾患」とされています。
日本では約800万人が何らかの症状を抱えており、X線学的な関節症の変化は日本の40歳以上の約55%、およそ2500万人に存在すると言われています。症状のある人は1800万人に達し、要介護状態への移行リスクが約6倍になることも指摘されています。これは、移動機能の低下を招くロコモティブシンドロームの代表的な疾患の一つです。
変形性膝関節症の原因
変形性膝関節症は多様な要因が絡み合って発症する「多因子疾患」です。主に以下の原因が挙げられます。
• 一次性膝OAと二次性膝OA
◦ 一次性膝OA(原発性): 特定の基礎疾患がなく発症するもので、ほとんどのケースがこれに該当します。遺伝的要因などの全身性要因に、膝関節への機械的ストレスが加わることで、関節軟骨や半月板、軟骨下骨、靭帯などの関節を構成する要素が変性して生じます。
◦ 二次性膝OA: 骨折、感染、骨壊死、脱臼などの先行する疾患や外傷によって関節の変形が生じ、これに加齢変化が加わって進行するものです。
• 主要なリスク因子
◦ 肥満(過体重): 体重が増えることで膝関節への負担が大きくなり、変形性膝関節症の発症リスクが高まります。大規模な調査では、過体重でオッズ比1.98倍、肥満で2.66倍と報告されています。
◦ 女性: 男性に比べて女性の方が発症しやすい傾向があります(オッズ比1.68倍)。
◦ 高齢: 年齢を重ねるごとに発症率が高まります.
◦ 膝関節外傷の既往: 過去の膝の怪我、特に前十字靭帯損傷(オッズ比4.2倍)や半月板との複合損傷(オッズ比6.0倍)はリスクを高めます。
◦ 膝関節に負荷をかける活動性(職業): 農業、林業、漁業などの職業や、正座やしゃがみ込みなどの動作が多い生活習慣は、膝関節に影響を与えやすいとされています。
◦ その他、機械的要因: 膝のアライメント異常、筋力低下、歩行時の膝の横ぶれ(スラスト)なども影響します。
◦ 全身性疾患との関連: 高血圧、脂質異常症、糖代謝異常(糖尿病)、認知症などの全身性疾患との関連も指摘されています。
• MRI所見から見た病態の進行要因
◦ MRI検査は、単純X線では捉えきれない軟骨、半月板、滑膜などの詳細な病変を検出できます。
◦ 半月板の損傷や逸脱: 膝OAの発症や進行に大きく関与すると指摘されています.
◦ 滑膜炎や関節水腫: これらは膝OAの結果として生じると考えられてきましたが、最近では発症・進行のリスク因子となる可能性も示唆されています.
◦ 骨・骨髄病変(BML)や軟骨下骨摩耗(SBA): これらの病変の発生や拡大も膝OAのリスクと考えられています。
変形性膝関節症の症状
変形性膝関節症の主な症状は膝の痛みですが、進行とともに様々な症状が現れます。
• 初期症状
◦ 膝のだるさや鈍重感。
◦ 膝のこわばり(特に朝起きた時など)。
◦ しゃがむ、起立するなどの荷重動作時に痛みが生じる。
• 進行後の症状
◦ 自発痛:何もしていなくても膝が痛むようになる。
◦ 夜間痛:夜間に膝の痛みで目が覚める。
◦ 特定の動作時の痛み: 階段の昇り降りや、座った状態からの立ち上がり時に膝蓋骨(膝のお皿)とその周囲に痛みが生じる場合、膝蓋大腿関節症が考えられます。
◦ 急な症状変化: 半月板損傷や関節内遊離体(関節ねずみ)を合併すると、急に痛みや引っかかり感を伴って可動域制限(膝が伸ばしきれない、曲げられない)が生じることがあります。
◦ 歩行の変化:
▪ 疼痛回避性跛行(かばい歩き): 痛みを避けるように歩く。
▪ 横ぶれ(スラスト): 関節の破壊が重度になると、歩行時に膝関節が外側に動揺する現象が見られる。
• 身体所見(診察でわかること)
◦ 多くの場合、**内反膝(O脚)**を呈し、両大腿骨内側顆間距離(膝を揃えた時の隙間)が広がる。
◦ 膝関節の**腫れ(腫脹)や膝蓋跳動(膝にお水がたまっている状態)**が認められる。
◦ 膝の局所に熱感はほとんど見られない。
◦ 大腿筋の萎縮(特に内側広筋)骨性隆起が認められる。
◦ 内側・外側の関節の隙間や大腿骨の顆部に圧痛がある。
◦ 膝の裏側(膝窩内側部)に**ベーカー嚢胞(水がたまった袋)**が触れることがある。
◦ 膝関節の可動域が制限される(伸展・屈曲方向)。
◦ 関節液検査では、薄黄色・透明で粘り気のある滑液が貯留していることが特徴です。