膝関節の変形性膝関節症において、手術が必要となるのは、主に保存療法で十分な効果が得られない場合や、特定の病態が存在する場合です。人工関節手術を含む外科的治療は、高い術後成績が期待できる治療法です。
手術が必要になるのはどんなとき?
変形性膝関節症の治療は、まず保存療法から開始されます。保存療法には、患者教育、生活指導、運動療法、物理療法、装具療法、薬物療法などが含まれます。
手術が必要と判断されるのは、以下のような状況です。
• 保存療法で十分な改善が得られない場合: 膝の痛みが持続し、日常生活動作(ADL)や身体機能の低下が著しい場合、外科的治療が検討されます。
• 機械的な原因による症状が強い場合: 半月板損傷や関節内遊離体などが原因で、キャッチング(膝が引っかかる感覚)やロッキング(膝が動かなくなる感覚)、可動域制限が強く、保存療法では改善が見込めないと考えられる場合です。この場合、早期の関節鏡視下手術が検討されることがあります。
• 疾患が進行し、移動機能が著しく障害されている場合: 痛みが持続することで活動性が低下し、身体機能やQOL(生活の質)が著しく低下している患者さんでは、移動機能の改善のために外科的治療が最も適した選択肢となることがあります。
医師は、患者さんの痛みの原因や病態を正確に把握し、個々の状態や期待される効果、潜在的なリスクを考慮して、治療法を決定します。
人工関節のリアル
人工関節手術には、主に**人工膝関節全置換術(TKA)と人工膝関節単顆置換術(UKA)**があります。それぞれの「リアル」、つまり実際の効果と注意点、その他の外科的治療の現実について以下に述べます。
1. 人工膝関節全置換術(TKA)
• 効果:
◦ 高齢者の進行した膝OAに対し、疼痛の軽減、ADL(日常生活動作)の改善に有効であり、QOL(生活の質)の向上にも有用です。
◦ 保存療法や放置例と比較して、術後の疼痛改善度と機能改善度が大きく、有用性が示されています。
• 術前の影響: 術前の疼痛閾値が低い患者は、術後の痛みが強い傾向があります。
• リハビリテーション: 術後の機能や疼痛に関して、早期から積極的に荷重や関節運動を行う高強度な後療法と、低強度で荷重を漸増的に行う後療法の間で明確な差は明らかになっていませんが、機能改善には効果が認められます。術前のリハビリテーションも機能改善に効果が見られます。
• 手術方法とインプラント: 50年以上歴史のある手術であり、インプラントデザインや靭帯温存型など多様な選択肢がありますが、現在使用されているレベルの機種やデザインでは有意な機能成績の差はほとんどありません。
• 疼痛管理: 術後急性痛に対して、局所浸潤鎮痛(LIA)や末梢神経ブロックが有用です。ただし、末梢神経ブロックには異常感覚や筋力低下などの合併症のリスクも報告されています。
2. 人工膝関節単顆置換術(UKA)
• 効果: 膝の片側(内側または外側)に限定された変形性膝関節症に対して行われ、疼痛や機能の改善に有用性が示されています。
• セメント固定とセメントレス固定: 短期成績ではセメントレス固定の方が再置換率が低いという報告があります。
• ロボットアシスト: ロボットアシスト手術と従来の手術の間で、臨床成績に明確な差は示されていませんが、アライメントの正確性は向上します。
3. 膝周囲骨切り術(HTO)
• 適応: 特に身体活動性が高く、比較的若い年齢の患者さんに有用です。
• 効果: 術後の疼痛、関節可動域、臨床成績が有意に改善します。
• 生存率: TKAへの移行をエンドポイントとした場合、5年で91.2〜97%、10年で68〜97.6%、15年で55〜90.4%の生存率が報告されています。
• 費用対効果: 初回手術としては、UKAやTKAと比較して費用対効果が良いとする報告もあります。
• スポーツ復帰: 85.5%の患者が元のスポーツに復帰し、79.5%が術前と同レベルの活動性が得られたと報告されています。
• リスク因子: 高齢、女性、BMI、糖尿病などが術後成績に影響を与えるリスク因子として挙げられます。
4. 関節鏡視下手術(半月板切除やデブリドマン)
• 有用性: 変形性膝関節症に対する関節鏡視下半月板部分切除やデブリドマンの有用性は限定的であり、治療法としては推奨されないとされています。
• 効果: 疼痛軽減や膝機能改善効果はほとんどなく、人工膝関節全置換術(TKA)への移行を抑制する効果もありません。むしろ、半月板部分切除によってTKAリスクが3倍になったという観察研究もあります。
• 合併症: 重篤な合併症は稀ですが、時に重篤な合併症が発生するリスクがあることから、中高齢者への実施は避けるべきだとされています。
• 費用対効果: 保存的治療と比較して費用がかかるため、費用対効果の面からも適切ではないと結論付けられています。
これらの情報から、手術は保存療法で効果が得られない場合に有効な選択肢となりますが、その種類と効果、リスクについては慎重な検討が必要です。特に人工関節手術は、疼痛の軽減と機能改善に大きく寄与し、QOL向上につながる可能性が高い治療法であると言えます。