腰痛は「症状」であり、国民生活基礎調査では有訴者率、受診率ともに上位を占める一般的な症状です。その治療や予防には、仕事との関連性も深く関わってきます。提供された資料からは、特に職業性腰痛の予防と職場での介入に関する情報が見られます。
腰痛と仕事の一般的な関係
腰痛は単一の疾患ではなく、多様な病態を含む症状であり、その病態特定が困難な場合も少なくありません。腰痛診療は「発展途上」とされており、急性、亜急性、慢性といった有症期間によっても注目すべき病態や有効な治療が異なります。
職業性腰痛への介入と予防策
「腰痛診療ガイドライン2019」では、職業性腰痛に対する職場での介入について以下の点が言及されています。
1. 持ち上げ動作の負荷軽減:
◦ 労働による腰痛予防のためには、持ち上げ動作の負荷軽減が有効とされています。
◦ 具体的には、25 kg以上の負荷は腰痛のリスクであり、3 kg以下の荷重であれば問題ないとされています。
◦ 持ち上げ器具の使用や、作業場の高さ調整が腰痛予防に効果的であり、重量の軽減も弱い推奨とされています。
◦ これは特に、立ち仕事や重労働を伴う職種において考慮すべき工夫と言えるでしょう。
2. 運動療法:
◦ 運動は、腰痛の強度と活動制限を軽減させる可能性が示されており、職場での腰痛発生を予防できる可能性があるとされています。
◦ 教育と組み合わせた運動は腰痛発生リスクを減少させる効果がありますが、運動単体でも腰痛発生のリスクを低下させる可能性が示唆されています。
◦ 適切な運動プログラムは、腰痛経験者を対象とした研究で、1年後の腰痛の再発を抑制する効果があったと報告されています。
◦ このことから、デスクワークや立ち仕事に関わらず、定期的な運動は腰痛予防に非常に重要であると考えられます。
3. 効果が認められなかった介入:
◦ 持ち上げ動作のトレーニング、腰痛ベルトの使用、雇用前のメディカルチェックは、腰痛予防に効果がなかったとされています。
他の運動器疾患から示唆されること
腰痛そのものに対する直接的な言及ではありませんが、他の運動器疾患のガイドラインからは、特定の身体活動が疾患リスクを高める可能性が示唆されており、これは腰痛と仕事の関係を考える上での参考となります。
• 変形性股関節症:重量物作業や立ち仕事は、変形性股関節症の発症危険因子とされています。男性では、股関節症発症リスクが2倍になる累積重量の推定値も報告されています。
• 変形性膝関節症:膝関節に負荷をかける活動性(職業)は、変形性膝関節症のリスク因子です。特に農業、林業、漁業は、事務職や技術職よりも膝OAおよび変形性腰椎症の危険性が高いとされています。また、正座やしゃがみ込み動作は、膝関節の骨棘形成や関節裂隙狭小化に影響すると報告されています。
まとめ
提供されたソースからは、デスクワークや立ち仕事における具体的な「工夫」の詳細なガイドラインは直接記載されていません。しかし、職業性腰痛の予防として、重いものを持ち上げる際の負荷軽減、作業環境(高さなど)の調整、そして継続的な運動が重要であることが示されています。腰痛ベルトや雇用前のメディカルチェックは効果がないとされています。
また、他の運動器疾患の例からは、長時間の立ち仕事や特定の身体活動(重量物作業、正座、しゃがみ込みなど)が、関節に負担をかけ、疾患のリスクを高める可能性が示唆されており、これらの活動に従事する際には、身体への負担を軽減するための配慮が重要であると考えられます。
腰痛予防のためには、ご自身の仕事内容と身体状況に合わせた適切な対策を、専門医と相談しながら講じることが最も重要です。