整形外科

5.変形性膝関節症と運動:やって良いこと・避けるべきこと

変形性膝関節症における運動療法および避けるべき治療法や注意点について、以下にまとめます。

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変形性膝関節症と運動:やって良いこと・避けるべきこと

変形性膝関節症の治療は、骨折を予防し、骨格の健康を保ち、生活機能とQOL(生活の質)を維持・向上することを目的としています [前文 30]。治療法の選択は、個々の患者の状態や環境に応じて、益と害を考慮した上で決定されるべきです [前文 32, 33]。

1. やって良いこと(推奨される治療法・運動)

変形性膝関節症の治療において、患者教育・生活指導、運動療法、体重管理は「コア治療」の一つとされています [前文 16, 257, 261]。

患者教育・生活指導

    ◦ 多くの国内外のガイドラインで変形性膝関節症治療の核心に位置づけられています。

    ◦ 短期(6週まで)では鎮痛効果や機能改善効果が高いとされますが、長期(1年以降)では効果が低下する傾向にあります。

    ◦ 重篤な有害事象はほとんどなく、安全性が高いと考えられます。

    ◦ 患者が自身の疾患の病態を理解し、それに則した生活様式や治療法に積極的に関わることが重要です。

運動療法

    ◦ 運動療法は、変形性膝関節症のコア治療の一つとして多くのガイドラインで推奨されています。

    ◦ 鎮痛効果と身体機能改善効果が報告されています。

    ◦ 推奨される運動内容:

        ▪ 筋力増強トレーニングとエアロビックエクササイズを組み合わせた運動

        ▪ 太極拳

        ▪ ロコモーショントレーニング(ロコトレ): 特にスクワットと開眼片脚起立が中心的な運動として推奨されており、これらはそれぞれ下肢筋力訓練とバランス能力を鍛える運動です。

        ▪ ヒールレイズ(かかと上げ)とフロントランジも下肢筋力を有効に鍛える方法として推奨されています。

        ▪ ウォーキング:骨粗鬆症予防にも有効であり、一般中高年者にはリスクが低く、大腿骨頚部の骨密度上昇も期待できるため適切と考えられます。

        ▪ 背筋強化訓練: 椎体骨折が1つ以下の患者に適応が良いとされています。

        ▪ 筋力訓練・バランス訓練: 週に2~3日以上行うことが転倒予防に有用です。

        ▪ プロプリオセプション(固有受容感覚)訓練と大腿四頭筋訓練: 転倒リスクを低下させる効果が報告されています。

        ▪ 開眼片脚起立訓練(フラミンゴ療法): 転倒発生率を低下させるとされています。

    ◦ 運動介入は、運動機能を高めると同時に、変形性膝関節症、変形性股関節症、腰痛、骨粗鬆症の症状や病態を改善します。

    ◦ サルコペニア、フレイル、ロコモティブシンドローム、肥満の体重管理など、直接的な膝OA効果以外にも有益とされます。

    ◦ 推奨の強さ:強い(実施することを推奨する)

体重管理

    ◦ 変形性膝関節症に対して有用ですが、その効果は限定的です。

    ◦ 運動介入に体重減少を組み合わせることで、鎮痛効果や機能改善効果が良好になると報告されています。

    ◦ 推奨の強さ:弱い(実施することを提案する)

    ◦ 栄養面では、バランスの取れた食事と十分なタンパク質の摂取が重要です。高齢期では低栄養に注意し、十分なカロリーとタンパク質の摂取が必要です。

    ◦ 骨粗鬆症予防の観点からも、カルシウムとビタミンDの十分な摂取が不可欠です。食事からの摂取が難しい場合は薬物としての投与も考慮します。

装具療法

    ◦ 膝装具(Knee brace)、**外側楔型足底板(Lateral wedge insole)**は、大きな除痛効果と機能改善効果を認めます。

    ◦ 膝装具では皮膚の刺激感や不快感などの副作用が比較的高かったものの、治療中止に至るような重篤な副作用は少なく、対処が容易であるとされています。

    ◦ 推奨の強さ:弱い(実施することを提案する)

    ◦ 靴、一本杖は有意な効果が認められませんでした。

薬物療法(一部)

    ◦ NSAIDs(非ステロイド性消炎鎮痛薬)外用剤: 鎮痛効果と機能改善効果が示されています。推奨の強さ:強い

    ◦ ヒアルロン酸関節内注射: 鎮痛・機能改善効果が認められます。重篤な合併症は少ないですが、注射部位の痛みや腫脹、発赤など軽微な合併症があります。推奨の強さ:弱い

    ◦ SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬、デュロキセチンなど): 慢性疼痛に対する鎮痛効果が期待でき、機能改善にも効果が認められています。強い疼痛で中枢感作を有する患者に提案されます。推奨の強さ:弱い

    ◦ ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出含有製剤(ノイロトロピン): 短期的な鎮痛効果や機能改善効果が認められるものの、長期効果やエビデンスは弱いとされています。推奨の強さ:弱い

    ◦ 弱オピオイド(トラマドール): 鎮痛・機能改善・ADL改善に効果があるものの、副作用(悪心・嘔吐、めまい、便秘など)が多いです。推奨の強さ:弱い

    ◦ アセトアミノフェン: 鎮痛・機能改善効果は限定的ですが、重篤な有害事象は少ないです(肝機能障害に注意が必要)。推奨の強さ:弱い

    ◦ NSAIDs(非ステロイド性消炎鎮痛薬)内服薬: 併存疾患(消化管障害、心血管障害、腎障害)のリスクを考慮する必要があります。推奨の強さ:弱い

2. 避けるべきこと・推奨されない治療法・注意点

物理療法

    ◦ 鍼治療: 高品質な研究が少なく、有用性の判断が難しいです。化膿性膝関節炎や異物残存のリスクが指摘されているため、実施しないことを提案するとされています。

    ◦ 灸治療: 質の高くない研究しかなく、有用性の判断が難しいです。火傷のリスクが指摘されているため、実施しないことを提案するとされています。

サプリメント

    ◦ グルコサミン、コンドロイチン、グルコサミンとコンドロイチンの併用、およびビタミンDのサプリメントは、鎮痛・機能改善効果、ADL/QOL改善効果、および軟骨保護作用はいずれの期間を通じても確認されず、有効性はすべて否定的であるとされています。

    ◦ 臨床的改善が見込まれない以上、そのコストは患者にとって受容できるものではないと結論付けられています。

    ◦ カルシウムサプリメントの高用量摂取(1回500mg以上)は、急激な血清カルシウム濃度の上昇の可能性があり、心血管疾患との関連が報告されているため注意が必要です。

ステロイド関節内注射

    ◦ 除痛効果、機能改善効果、ADL改善効果は炎症の鎮静化や短期的な除痛に限定されます。

    ◦ 長期的な軟骨容量の減少が報告されており、重篤な合併症は稀ですが注意が必要です。推奨の強さ:弱い

関節鏡視下手術

    ◦ 除痛効果や膝関節機能改善効果は少なく、人工膝関節全置換術(TKA)への移行を抑制する効果も期待できないとされています。

    ◦ 死亡、肺血栓塞栓症、深部静脈血栓症、感染など、重篤な合併症が発生するリスクが指摘されており、中高齢者には推奨されないという意見もあります。

    ◦ 費用対効果の面から、通常診療で行うには適さないと結論付けられています。

食事指導における注意点(骨粗鬆症の予防の観点から)

    ◦ リン、食塩、カフェイン、アルコールの過剰摂取は控えるよう心がけるべきです。

手術療法(治療の最終選択肢として)

    ◦ 変形性膝関節症が進行し、保存療法で十分な改善が見られない場合や、病態が進行している場合に手術療法が検討されますが、これは運動療法を避けるべきという意味ではありません。むしろ、術後のリハビリテーションとしての運動療法が重要であると述べられています。

    ◦ 膝周囲骨切り術(High Tibial Osteotomy: HTOなど): 膝のアライメントを修正し、膝関節の一部に集中する負荷を軽減することで、自身の関節を温存し、活動性の高い患者の痛みを軽減し、機能改善を図ります。身体活動性が高い、あるいは比較的年齢の低い膝OA症例に特に有用と考えられます。

    ◦ 人工膝関節単顆置換術(Unicompartmental Knee Arthroplasty: UKA): 膝関節の一部に限局した変形性膝関節症に対して、損傷した部分のみを人工関節に置き換える手術です。

    ◦ 人工膝関節全置換術(Total Knee Arthroplasty: TKA): 変形性膝関節症が進行し、関節全体が損傷している場合に、膝関節全体を人工関節に置き換える手術です。疼痛や機能改善において最も確実な効果が期待できる治療法です。ただし、手術のみで直ちに移動機能が改善するわけではなく、術後の集中的なリハビリテーションが重要です。

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