変形性膝関節症の治療法について、整形外科で行われる保存療法と手術療法を中心に、詳細をまとめます。変形性膝関節症の治療は、骨折を予防し、骨格の健康を保ち、生活機能とQOL(生活の質)を維持・向上することを目的とします。診療ガイドラインは、医療利用者(患者とその家族、一般市民)と医療提供者(医師、看護師、医療・保健・介護・福祉の行政担当者など)の意思決定を支援するための情報源であり、個々の患者の状態や環境に応じて、益と害を考慮した上で治療法を決定すべきであるとされています。
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1. 保存療法
変形性膝関節症の保存療法には、患者教育・生活指導、運動療法、体重管理、物理療法、装具療法、薬物療法などがあります。
1.1. 患者教育・生活指導
患者教育と生活指導は、国内外の主要なガイドラインで変形性膝関節症治療の核心に位置づけられています。
• 効果: 短期(6週まで)では鎮痛効果や機能改善効果が高いとされますが、長期(1年以降)ではその効果は低下する傾向にあります。ADL(日常生活動作)やQOLの改善効果については、短期・長期ともに有意な改善効果は認められていません。
• 有害事象: 重篤な有害事象はほとんどなく、安全性が高いと考えられます。
1.2. 運動療法
運動療法は、変形性膝関節症のコア治療の一つとして多くのガイドラインで推奨されています。
• 効果: 鎮痛効果と身体機能改善効果が報告されています。運動内容は様々ですが、筋力増強トレーニングとエアロビックエクササイズを組み合わせた運動や太極拳などが効果を示しています。サルコペニア、フレイル、ロコモティブシンドローム、肥満の体重管理など、直接的な膝OA効果以外にも有益とされます。
• 推奨の強さ: 強い(実施することを推奨する)。
1.3. 体重管理
体重減少は変形性膝関節症に対して有用ですが、その効果は限定的です。
• 効果: 体重減少単独では鎮痛効果、機能改善効果に差を認めない報告がある一方で、運動介入に体重減少を組み合わせることで、鎮痛効果や機能改善効果が良好になると報告されています。
• 推奨の強さ: 弱い(実施することを提案する)。
1.4. 物理療法
物理療法の中には有用なものも存在しますが、高品質な研究が少なく、推奨される治療法は限定的です。
• 経皮的電気神経刺激(TENS): コントロール群と比較して中等度の鎮痛効果と機能改善効果を認めました。推奨の強さ:弱い(実施することを提案する)。
• 超音波治療: コントロール群と比較して弱い鎮痛効果と中等度の機能改善効果を認めました。推奨の強さ:弱い(実施することを提案する)。
• 鍼治療: コントロール群と比較して弱い鎮痛効果とわずかな機能改善効果を認めますが、質の高いRCTは少なく、有用性の判断は難しいです。化膿性膝関節炎や異物残存のリスクが指摘されています。推奨の強さ:弱い(実施しないことを提案する)。
• 灸治療: コントロール群と比較して中等度の鎮痛効果と弱い機能改善効果を認めますが、質の高いRCTは少なく、有用性の判断は難しいです。火傷のリスクが指摘されています。推奨の強さ:弱い(実施しないことを提案する)。
1.5. 装具療法
装具療法は、鎮痛効果と機能改善効果において有用性が示されています。
• 効果:
◦ 膝装具(Knee brace)、外側楔型足底板(Lateral wedge insole): 大きな除痛効果と機能改善効果を認めます。膝装具では皮膚の刺激感や不快感などの副作用が比較的高かったものの、治療中止に至るような重篤な副作用は少なく、対処が容易であるとされています。
◦ 靴、一本杖: 有意な効果は認められませんでした。
• 推奨の強さ: 弱い(実施することを提案する)。
1.6. 薬物療法
薬物療法は、痛みの病態を把握し、それに則した治療を速やかに行うことが大切です。
• アセトアミノフェン: 鎮痛・機能改善効果は限定的ですが、重篤な有害事象は少ないです(肝機能障害に注意が必要)。推奨の強さ:弱い。
• NSAIDs(非ステロイド性消炎鎮痛薬)内服薬: 併存疾患(消化管障害、心血管障害、腎障害)のリスクを考慮する必要があります。推奨の強さ:弱い。
• NSAIDs外用剤: 鎮痛効果と機能改善効果が示されています。推奨の強さ:強い。
• ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出含有製剤(ノイロトロピン): 短期的な鎮痛効果や機能改善効果が認められるものの、長期効果やエビデンスは弱いとされています。推奨の強さ:弱い。
• 弱オピオイド(トラマドール): 鎮痛・機能改善・ADL改善に効果があるものの、副作用(悪心・嘔吐、めまい、便秘など)が多いです。推奨の強さ:弱い。
• SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬、デュロキセチンなど): 慢性疼痛に対する鎮痛効果が期待でき、機能改善にも効果が認められています。推奨の強さ:弱い。
• ヒアルロン酸関節内注射: 鎮痛・機能改善効果が認められます。重篤な合併症は少ないですが、注射部位の痛みや腫脹、発赤など軽微な合併症があります。推奨の強さ:弱い。
• ステロイド関節内注射: 除痛効果、機能改善効果、ADL改善効果は炎症の鎮静化や短期的な除痛に限定されます。長期的な軟骨容量の減少が報告されており、重篤な合併症は稀ですが注意が必要です。推奨の強さ:弱い。
• カルシウム・ビタミンD・ビタミンK: これらは骨粗鬆症の治療や予防に不可欠な栄養素であり、骨の健康維持に重要です。変形性膝関節症への直接的な効果に関する記述は、提供されたソースでは限定的です。サプリメントとしてのグルコサミン、コンドロイチン、ビタミンDは、鎮痛・機能改善・ADL/QOL改善効果、および軟骨保護作用はいずれの期間を通じても確認されませんでした。
• ビスホスホネート薬: 主に骨粗鬆症の治療薬として骨密度上昇と骨折抑制効果があります。変形性膝関節症への直接的な疼痛軽減や機能改善効果については、ソース内では明確に述べられていません。
• テリパラチド(副甲状腺ホルモン薬): 主に骨粗鬆症の骨形成促進薬として骨密度上昇と椎体骨折抑制効果が強いです。骨粗鬆症による痛みには効果が示されています。変形性膝関節症への直接的な効果はソース内では明確に述べられていません。
• デノスマブ(抗RANKL抗体薬): 主に骨粗鬆症の骨吸収抑制薬として骨密度上昇と骨折抑制効果が強いです。変形性膝関節症への直接的な効果はソース内では明確に述べられていません。
2. 手術療法
保存療法で十分な改善が見られない場合や、病態が進行している場合に手術療法が検討されます。
2.1. 関節鏡視下手術
• 効果: 除痛効果や膝関節機能改善効果は少なく、人工膝関節全置換術(TKA)への移行を抑制する効果も期待できないとされています。
• 有害事象: 死亡、肺血栓塞栓症、深部静脈血栓症、感染など、重篤な合併症が発生するリスクが指摘されており、中高齢者には推奨されないという意見もあります。
• コスト: 費用対効果の面から、通常診療で行うには適さないと結論付けられています。
2.2. 膝周囲骨切り術(High Tibial Osteotomy: HTOなど)
• 目的: 膝のアライメントを修正し、膝関節の一部に集中する負荷を軽減することで、自身の関節を温存し、活動性の高い患者の痛みを軽減し、機能改善を図ります。
• 将来性: 高齢者の就労人口増加やスポーツ継続を望む患者の増加、再生医療の発展に伴い、臨床的意義が増すことが予想されています。
2.3. 人工膝関節単顆置換術(Unicompartmental Knee Arthroplasty: UKA)
• 目的: 膝関節の一部(通常は内側)に限局した変形性膝関節症に対して、損傷した部分のみを人工関節に置き換える手術です。
• 効果: 人工膝関節全置換術(TKA)と同様に、疼痛や機能改善に有用性が示されています。
2.4. 人工膝関節全置換術(Total Knee Arthroplasty: TKA)
• 目的: 変形性膝関節症が進行し、関節全体が損傷している場合に、膝関節全体を人工関節に置き換える手術です。
• 効果: 疼痛や機能改善において最も確実な効果が期待できる治療法です。ただし、手術のみで直ちに移動機能が改善するわけではなく、術後の集中的なリハビリテーションが重要です。
• 周術期管理: 術後の急性疼痛に対しては、末梢神経ブロック(大腿神経ブロック、内転筋管ブロックなど)やステロイド薬の静脈内投与などが有効とされています。
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治療法の選択は、患者の症状の程度、活動性、膝関節の状態(X線やMRI所見)、合併症、生活背景などを総合的に考慮し、患者と医師の間で十分に話し合って決定されるべきです