変形性股関節症の患者さんが、この疾患と上手に付き合い、生活の質(QOL)を維持・向上させるためには、疾患の理解と積極的な自己管理が重要です。
主な生活の工夫と復帰プランは以下の通りです。
• 患者教育と疾患の理解: 股関節の解剖や疾患の進行について学ぶこと、そして日常生活環境の改善、動作指導、杖や装具の使用方法、体重管理、家庭での運動指導など、多岐にわたる患者教育が提供されます。これにより、患者は自身の状態を理解し、治療に主体的に関わることができます。
• 生活習慣の改善:
◦ 体重管理: 体重の適切な管理は、股関節への負担を軽減し、活動の質の改善に寄与するだけでなく、疾患の進行を遅らせる可能性も報告されています。
◦ 運動療法: 疼痛軽減や身体機能改善に有効であり、自宅で簡便に行えるホームエクササイズも含まれます。有酸素運動、筋力増強訓練、水中運動などが推奨され、安全性も高いとされています。
◦ 食事: 骨の健康維持のためには、カルシウム、ビタミンD、ビタミンKの十分な摂取が重要です。
• 補助具の活用: 杖や歩行器、靴、膝装具、外側楔型足底板などの装具を症状に応じて適切に利用することは、股関節への負荷を軽減し、疼痛緩和や機能改善、歩行安定化に有効です。副作用のリスクは低いか、対処しやすいとされています。
• 疼痛管理と薬物療法: 薬物療法(例えばNSAIDsなど)は疼痛緩和に有用ですが、消化器症状などの副作用に注意が必要です。患者の治療意欲やライフスタイルを考慮し、医師と相談しながら治療法を選択することが大切です。
• 手術治療(人工股関節全置換術: THA)とリハビリテーション:
◦ THAは、疼痛を著しく緩和し、QOLを大幅に向上させる効果が期待でき、患者満足度も非常に高い(84〜97%)と報告されています。
◦ 術後には、正座や和式トイレなどの深屈曲を要する日本の生活様式に合わせた動作の改善も見られます。
◦ 就労やスポーツへの復帰も、術前と同等またはそれ以上のレベルで可能になることがあります。
◦ 術前通院リハビリテーションは、術後の疼痛軽減、臨床成績の改善、入院期間の短縮に有意な効果を示し、術後の継続的なリハビリも重要です。
◦ 精神状態への働きかけも、THA後のQOLをさらに向上させる可能性が指摘されています。
• 医療者との共同意思決定: 患者個々の状態、環境、価値観、好みを考慮し、治療の益と害について医療者と十分に話し合った上で、最適な治療法を選択することが基本となります。服薬順守の向上には、医療チーム全体が患者に繰り返し治療の重要性を伝える地道な努力が最も効果的とされています。
これらの工夫を日常生活に取り入れ、医療者との連携を密にすることで、人工股関節と上手に付き合い、活動的で質の高い生活を長期にわたって維持することが期待されます。