変形性股関節症は、関節軟骨の変性や摩耗により関節が変形し、骨棘(こつきょく)形成などの骨増殖を特徴とする疾患です。関節リウマチのような炎症性疾患とは異なります。
日本では二次性股関節症が圧倒的に多く、約80%を占め、その主な原因は寛骨臼(かんこつきゅう)形成不全、先天性股関節脱臼、股関節亜脱臼です。近年は**大腿骨寛骨臼インピンジメント(FAI)**も原因として認識されています。
症状
変形性股関節症の主な症状は股関節部の痛みで、大腿部や殿部に関連痛が生じることもあります。**初期には長く歩いた後のだるさや運動開始時の痛み(starting pain)が挙げられます。病気が進行すると可動域制限や跛行(歩行障害)**を呈し、特に内外旋の制限が特徴的です。
原因・危険因子
変形性股関節症は多因子疾患であり、以下の危険因子が挙げられます。
• 形態異常: 日本人では寛骨臼形成不全が主要な原因(80%以上)です。FAIのcam変形も発症・進行の有意な危険因子とされています。
• 遺伝的要因: 疫学研究により、変形性股関節症の発症には遺伝的要因が関与していることが明らかになっています。
• 職業・活動性: 重量物作業や長時間の立ち仕事、ハイレベルな競技スポーツ歴などが危険因子として挙げられます。
• 身体的要因: **肥満(過体重)**は発症の危険因子であり、大腿骨頚部の骨密度低下も将来の発生危険因子となる傾向があります。また、血中骨吸収マーカー高値は発症の独立した危険因子です。
進行のメカニズム
変形性股関節症は多くの場合進行性で、長い時間をかけて病状が悪化していきます。一般的に前股関節症 → 初期 → 進行期 → 末期へと段階的に進行する場合が多いです。加齢、肥満、寛骨臼形成不全は股関節症発生の危険因子であり、股関節痛と寛骨臼形成不全は股関節症増悪の危険因子となります。特にCE角10°未満の症例や50歳以上の年齢で、前股関節症が進行しやすい傾向があります。
病態としては、関節軟骨の変性や摩耗が進行し、その周囲の骨や滑膜組織にも変化が生じ、関節裂隙(関節の隙間)が狭小化していきます。この関節裂隙の狭小化は、股関節痛や可動域制限といった臨床症状と強く関連すると言われています。寛骨臼形成不全がある場合、関節唇の幅が増大し、正常な股関節と比較して関節唇にかかる荷重負荷が増大すると考えられています。関節唇損傷は股関節症の非常に早い病期から観察されることが多く、その損傷の程度は寛骨臼形成不全の程度と相関し、関節症の進行リスクを著しく高めます。一方で、進行期や末期の股関節症の中には、十分な骨棘形成がみられると疼痛やX線所見が改善する例もあります。