変形性膝関節症の進行度とその見分け方について、ご説明します。変形性膝関節症は、膝関節に痛みや機能低下を引き起こす進行性の疾患であり、時間とともにその症状や関節の状態が変化していきます。
変形性膝関節症の進行度
変形性膝関節症は、軟骨だけでなく、軟骨の下にある骨組織、靭帯、関節包、滑膜、関節周囲の筋肉といった関節全体に影響を及ぼす疾患です。中年以降に診断された変形性膝関節症は、ほぼ全て進行することが欧米の長期追跡調査から分かっています。また、診断されていなくても膝に痛みがある場合は、ほとんどが変形性膝関節症に進展するとされています。
変形性膝関節症の見分け方(症状・所見・診断ツール)
進行度合いによって、以下のような症状や身体所見、画像診断の変化が見られます。
1. 症状
• 初期症状:
◦ 膝のだるさや鈍重感。
◦ 膝のこわばり(特に朝起きた時など)。
◦ しゃがむ、起立するなどの荷重動作時に痛みが生じる。
• 進行後の症状:
◦ 自発痛:何もしていなくても膝が痛むようになる。
◦ 夜間痛:夜間に膝の痛みで目が覚める。
◦ 特定の動作時の痛み: 階段の昇り降りや、座った状態からの立ち上がり時に膝蓋骨(膝のお皿)とその周囲に痛みが生じる場合、膝蓋大腿関節症が考えられます。
◦ 急な症状変化: 半月板損傷や関節内遊離体(関節ねずみ)を合併すると、急に痛みや引っかかり感を伴って可動域制限(膝が伸ばしきれない、曲げられない)が生じることがあります。
◦ 歩行の変化:
▪ 疼痛回避性跛行(かばい歩き): 痛みを避けるように歩く。
▪ 横ぶれ(スラスト): 関節の破壊が重度になると、歩行時に膝関節が外側に動揺する現象が見られる。
2. 身体所見(診察でわかること)
• 多くの場合、**内反膝(O脚)**を呈し、両大腿骨内側顆間距離(膝を揃えた時の隙間)が広がる。
• 膝関節の**腫れ(腫脹)や膝蓋跳動(膝にお水がたまっている状態)**が認められる。
• 膝の局所に熱感はほとんど見られない。
• 大腿筋の萎縮(特に内側広筋)骨性隆起が認められる。
• 内側・外側の関節の隙間や大腿骨の顆部に圧痛がある。
• 膝の裏側(膝窩内側部)に**ベーカー嚢胞(水がたまった袋)**が触れることがある。
• 膝関節の可動域が制限される(伸展・屈曲方向)。
• 関節穿刺では通常、薄黄色・透明で粘り気のある滑液が貯留していることが特徴です。
3. 画像診断による評価
変形性膝関節症の診断には、患者の訴えが強い場合でも、単純X線で膝関節の形態的な変化が軽度または認められないことがあります。このような乖離が見られる場合、膝関節内で起きている変化を客観的に捉える試みが重要です。
• 単純X線検査:
◦ 変形性膝関節症の診断において、現在でもゴールドスタンダードとされており、関節裂隙の狭小化、骨棘、軟骨下骨の骨硬化といった膝関節局所の評価に有用です。
◦ 荷重位での撮影(特に30~60°屈曲位)が推奨されており、関節裂隙狭小化の検出力が向上します。
◦ 下肢全長撮影により、アライメント異常(大腿脛骨角の増大や減少)を確認できます。
◦ しかし、骨髄病変、軟骨病変、半月板病変、滑膜炎などの軟部組織や骨髄の病変は検出できないため、注意が必要です。
• MRI:
◦ 膝関節の病態を詳細に描出する上で現在最も優れた診断ツールです。
◦ 滑膜炎や関節水腫などの炎症所見、半月板や軟骨などの病変を詳細に描出できます。
◦ 特に、半月板の損傷や逸脱、**骨髄病変(BML)や軟骨下骨摩耗(SBA)**などといったMRI所見が、変形性膝関節症の発症や進行に大きく関与すると指摘されています。
◦ 関節軟骨の摩耗のリスクを評価し、半月板病変や軟骨下骨病変といった関節軟骨以外の病変がそのリスクを高めることが明らかにされています。
• 超音波検査:
◦ MRIと同様に非侵襲的であり、動的な解析が可能であるという利点があります。
◦ 半月板逸脱(MME)など、変形性膝関節症の重要な病態の評価に有用で、重症度が増すほど荷重によるMMEの程度が増すことが示されています。
4. バイオマーカー
• 血清や尿中のバイオマーカーは、疾患の重症度(burden of disease)、予後(prognostic)、介入効果判定(efficacy of intervention)、診断(diagnostic)、介入の安全性(safety of intervention)を評価するBIPEDS分類に基づいて集約されています。
• 軟骨代謝マーカー(尿中CTX-II、血清COMP)や滑膜・関節液由来の血性HA、骨代謝マーカー(尿中NTX-I)などが報告されており、診断や進行度の評価に役立つ可能性があります。
変形性膝関節症の進行に影響を与える因子
変形性膝関節症は多様な要因が絡み合って発症・進行する「多因子疾患」です。
• 主要なリスク因子:
◦ 肥満(過体重): 体重が増えることで膝関節への負担が大きくなり、発症リスクが高まります(過体重でオッズ比1.98倍、肥満で2.66倍)。
◦ 女性: 男性に比べて女性の方が発症しやすい傾向があります(オッズ比1.68倍)。
◦ 高齢: 年齢を重ねるごとに発症率が高まります。
◦ 膝関節外傷の既往: 過去の膝の怪我、特に前十字靭帯損傷(オッズ比4.2倍)や半月板との複合損傷(オッズ比6.0倍)はリスクを高めます。
◦ 膝関節に負荷をかける活動性(職業): 農業、林業、漁業などの職業や、正座やしゃがみ込みなどの動作が多い生活習慣は、膝関節に影響を与えやすいとされています。
◦ その他、機械的要因: 膝のアライメント異常、筋力低下、歩行時の膝の横ぶれ(スラスト)なども影響します。
• 全身性疾患との関連:
◦ 心血管疾患との合併の危険度が1.15~1.26倍と報告されています。
◦ 高血圧、肥満症、高脂血症、耐糖能異常からなるメタボリックシンドロームの構成要素の罹患数が、膝OAの発生と進行のリスクを高めることが報告されています。
◦ 軽度認知障害も膝OAの発生リスクを高めることが指摘されています。
◦ 骨粗鬆症の影響については、BMD(骨密度)やビタミンDをパラメータとした研究では弱い関連性または関連性がないとされています。
変形性膝関節症の予後への影響
• 画像診断による膝OA(radiographic knee OA, RKOA)は、心血管障害、糖尿病、腎障害による生命予後に関与するとの報告があります。
• 膝の痛みを伴うRKOAと膝の痛みのみのいずれも、総死亡リスクを有意に上げることが示唆されています。この影響は肥満(BMI 30以上)がある場合にさらに増強されます。
• 変形性膝関節症による膝の痛みが持続すると活動性が低下し、身体機能低下や精神的苦痛を招きます。膝OAは移動機能の障害を引き起こし、重症化すると要介護状態への移行リスクが約6倍になると指摘されています。
• QOL(生活の質)や健康寿命への影響については報告が少ないものの、症候性膝OAの総死亡への影響は、障害やQOL評価指標を介した間接的な影響が示唆されています。