骨粗鬆症は、単なる「骨の老化現象」ではなく、「疾患」として捉えられています。現在、日本では約1300万人が罹患していると推定される重要な社会課題です。
その定義は時代とともに進化してきました。1991年のWHOコンセンサス会議では、「骨粗鬆症とは、低骨量と骨組織の微細構造の異常を特徴とし、骨の脆弱性が増大し、骨折の危険性が増加する疾患である」とされました。さらに2000年の米国国立衛生研究所(NIH)コンセンサス会議では、この概念が修正され、「骨強度の低下を特徴とし、骨折のリスクが増大した骨格疾患」と定義されています。
この「骨強度」は、主に「骨密度」と「骨質」という二つの要因によって規定されます。
• 骨密度は、骨に含まれるミネラルの量を指し、成人期以降、加齢や閉経に伴い、破骨細胞による骨吸収が骨芽細胞による骨形成を上回ることで低下します。
• 骨質は、骨の素材としての「材質特性」と、その微細な構造である「構造特性」により規定されます。骨リモデリングの亢進によって二次石灰化が不十分になったり、酸化ストレスや糖化の亢進、ビタミンDやビタミンKの不足などが骨質を劣化させる要因となります。骨質は骨密度だけでは説明できない骨の脆さに関わります。
骨粗鬆症が深刻なのは、これらの骨強度低下によってわずかな外力でも骨折しやすくなる「脆弱性骨折」のリスクが増大するためです。特に椎体骨折や大腿骨近位部骨折は、日常生活動作(ADL)や生活の質(QOL)を著しく低下させ、寝たきりの原因となるだけでなく、死亡率も上昇させる深刻な合併症です。一度骨折すると、その後の新たな骨折発生の危険性が高まるため、既存骨折は骨密度とは独立した重要な骨折危険因子とされています。
個々の患者の骨折リスク評価には、骨密度や既存骨折の有無に加え、年齢、性別、体重、両親の大腿骨近位部骨折歴、喫煙、飲酒、ステロイド薬使用、関節リウマチ、続発性骨粗鬆症などの臨床的危険因子を総合的に評価するWHOのFRAX®ツールも活用されます。骨粗鬆症は多様な要因によって引き起こされるため、個別の評価に基づいた予防と治療が非常に重要です。