整形外科

骨折後のQOL維持と疼痛管理

骨粗鬆症による骨折は、単に骨の物理的な損傷に留まらず、患者の日常生活動作(ADL)や生活の質(QOL)を著しく低下させ、疼痛や精神的負担を伴う重篤な事態を招きます。そのため、骨粗鬆症治療の目的は、骨折を予防することに加え、骨折後のQOLを維持・改善し、疼痛を適切に管理することにあります。

骨折がQOLに与える影響 骨粗鬆症による骨折の中でも、大腿骨近位部骨折は直接的にADLの低下や寝たきりに結びつき、その後の生命予後を悪化させます。骨折前にADLが自立していた患者の約半数が、骨折1年後にはADLが低下していたと報告されています。 椎体骨折は最も頻度の高い骨粗鬆症性骨折であり、疼痛、運動機能の低下、精神的負担、社会参加の減少など、QOLに多大な影響を及ぼします。たとえ痛みがなくても、椎体変形自体がQOLを低下させることも明らかになっています。骨折の個数が増えるほどQOLはさらに低下する傾向にあります。骨折後のQOL低下は長期にわたり、全身の機能に影響を与え続ける事実も示されています。

疼痛管理の重要性 疼痛はQOL低下の大きな要因であり、骨折後の疼痛管理は極めて重要です。

カルシトニン薬は、椎体骨折に由来する急性疼痛に対する鎮痛効果がメタアナリシスで証明されています。

副甲状腺ホルモン(PTH)薬(テリパラチド)は、急性および慢性疼痛の両方に対して除痛効果が認められており、その効果は投与中止後も持続するとされています。

ビスホスホネート薬も、骨粗鬆症性疼痛(急性・慢性の区別なし)に対して除痛効果があると報告されています。

選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM)(ラロキシフェン、バゼドキシフェン)も、疼痛やQOLの改善効果が報告されています。

エルデカルシトールもQOL評価でアルファカルシドールを上回る改善が示されています。

物理療法(温熱療法、光線療法、電気療法など)は慢性腰背部痛に経験的に有効とされますが、個別のRCTによる確固たるエビデンスは不足しています。

ブロック療法椎体形成術・後弯矯正術(VP/KP)は、疼痛管理に用いられますが、その有効性については短期的な効果と長期的な効果、偽手術との比較などで見解が分かれており、さらなる質の高い研究が求められています。重篤な症状を伴う脊柱変形に対して行われる脊椎固定術なども、長期的な課題が存在します。

リハビリテーションと機能改善 骨折後の機能回復には、早期からのリハビリテーションが不可欠です。

• 大腿骨近位部骨折後の歩行能力は、手術後6ヵ月以内に大きく決定されるため、早めの集中的なリハビリが重要とされています。

運動指導は、骨密度の維持・上昇だけでなく、筋力やバランス能力を改善し、転倒予防に繋がり、結果的に骨折リスクを低減させます。ウォーキングや筋力訓練などが推奨されます。

• 薬物治療においても、エルカトニンはリハビリテーションによる歩行能力の改善効果を増強することが報告されています。エルデカルシトールも、立ち上がり時間や筋力改善を示し、転倒抑制に寄与する可能性が示唆されています。

個別化されたアプローチの重要性 骨粗鬆症治療は、薬物治療が中心となりますが、栄養、運動などの非薬物療法も骨強度維持・増大に不可欠です。また、転倒など骨強度低下に依存しない骨折危険因子を回避する生活習慣も重要です。 患者の年齢、骨折の有無と種類、疼痛の程度、運動機能、QOL評価(JOQOLなど)を総合的に評価し、個々の患者に合わせた治療計画を立て、定期的なモニタリングを行うことが、QOLの維持・向上に繋がります

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