整形外科

転倒予防とロコモティブシンドローム

骨粗鬆症と密接に関連する「ロコモティブシンドローム」(以下、ロコモ)と「転倒予防」は、高齢化が進む社会において、人々のQOL(生活の質)と健康寿命の維持・改善に不可欠な要素です。

ロコモティブシンドロームの概念と社会的背景

ロコモとは、運動器の障害のために移動機能の低下をきたした状態を指し、進行すると要介護状態になるリスクが高まります。この概念は、2007年に日本整形外科学会によって提唱されました。

その背景には、日本の超高齢社会化があります。2007年に高齢化率が21%を超え、2014年には25.9%に達し、2060年には39.9%に達すると試算されています。高齢者の増加に伴い、介護が必要な要支援・要介護認定者も増え続け、2000年の220万人から2014年には580万人に達しました。これらの要介護認定要因の多くは、転倒・骨折や関節疾患などの運動器障害によるものです。中高年者に多い運動器疾患には、変形性関節症、変形性脊椎症、骨粗鬆症があり、これらの疾患が重複罹患することも多いため、運動器の健康維持が重要視されています。

ロコモの評価には「ロコモチェック」や「立ち上がりテスト」「2ステップテスト」「ロコモ25」などのテストがあり、これらの臨床判断値によって「ロコモ度1」(ロコモが始まった状態)や「ロコモ度2」(ロコモが進行した状態)が示されます。

ロコモと骨粗鬆症・転倒の関連

骨粗鬆症は、高齢者の転倒・骨折が要支援・要介護の主要な原因であることから、ロコモの特に重要な構成疾患とされています。ロコモと骨粗鬆症および骨折は、相互に原因と結果になる関係にあります。例えば、ロコモチェック陽性者はFRAX®の骨折確率が有意に高いと報告されており、骨折すると運動機能が低下し、易転倒性や骨粗鬆症の悪化につながります。そのため、高齢者の骨折予防においては、ロコモ予防を並行して行うことが有用かつ効果的であると考えられています。

転倒予防とロコモ改善の方法

転倒の危険因子としては、過去1年間の転倒歴、歩行能力(脚運動能力)の低下、特定の薬物服用、80歳以上、うつの既往、脳卒中の既往などが挙げられます。

転倒予防のための介入方法には、主に以下のものがあります:

運動介入: 筋力増強訓練、バランス訓練、歩行訓練、柔軟訓練など。特に、介入期間中に50時間を超えるような高強度の運動介入で、ウォーキングを含めないバランス訓練を含むプログラムが最も転倒予防に有効であったと報告されています。

運動以外の介入: 服薬指導、食事指導、環境準備、行動変容のための教育など。

多角的介入: 運動・運動以外の介入に加えて、身体・知的機能、環境、医学的評価に基づいた対策。

運動指導は、骨密度の維持・上昇だけでなく、筋力やバランス能力を改善し、転倒予防に繋がり、結果的に骨折リスクを低減させます。ウォーキングや筋力訓練が推奨され、開眼片脚起立は転倒予防効果があるとされます。また、十分なタンパク質の摂取など、バランスの取れた栄養摂取もロコモ予防・改善に重要です。

ビタミンDは転倒リスクの低下をもたらす可能性が示唆されています。ただし、転倒予防が骨折予防に直接結びつく明確な科学的根拠は不足していると指摘されています。これは、「転倒・大腿骨近位部骨折ハイリスク高齢者」を適切に選択できていないことが最大の原因と考えられています。

転倒骨折リスクの高い集団には、ヒッププロテクターが有効である可能性も報告されていますが、在宅高齢者での有効性はコンプライアンスの低さから否定的です。

骨粗鬆症の薬物治療においても、エルカトニンやリセドロネート、ラロキシフェン、エルデカルシトールなどがQOLの改善効果を示すことが報告されており、エルデカルシトールは立ち上がり時間や筋力改善を示し、転倒抑制に寄与する可能性も示唆されています。

まとめ

ロコモと骨粗鬆症は、超高齢社会において健康寿命を阻害する共通の要因であり、その予防や対策が健康寿命の延伸に繋がります。ロコモの評価法が転倒リスクと関連が深く、ロコモへの介入が転倒予防に繋がり得るため、ロコモと骨粗鬆症を同時に予防し、対策をとっていくことは有用かつ効果的であると考えられます。

最新の投稿一覧

-整形外科