骨粗鬆症の治療は、骨折を予防し、患者の日常生活動作(ADL)と生活の質(QOL)を維持・改善することを目的とします。これは単なる「骨の老化現象」ではなく「疾患」として早期からの予防と治療が求められています。治療法は多岐にわたり、薬物治療と非薬物治療、そして個々の患者に合わせた個別化されたアプローチが重要です [ GL2015.pdf 序文, 3, 5, 23, 34, 110, 133]。
非薬物治療
1. 食事指導:
◦ 骨の健康にはカルシウム、ビタミンD、ビタミンKの十分な摂取が不可欠です。
◦ 推奨摂取量は、カルシウム700~800mg/日、ビタミンD400~800IU、ビタミンK250~300µgとされます。魚類や緑黄色野菜、納豆などが推奨食品です。
◦ リン、食塩、カフェイン、アルコールの過剰摂取は控えるべきです。カルシウムサプリメントの過剰摂取は心血管リスクとの関連も指摘されており、注意が必要です。
2. 運動指導:
◦ 荷重がかかる運動や筋力訓練は、骨密度維持・上昇に有用です。ウォーキング、ジョギング、ダンスなどが効果的とされます。
◦ 高齢者においては、筋力・バランス訓練が転倒予防に繋がり、結果的に骨折リスクを低減させます。特に背筋強化訓練は椎体骨折の予防にも有効と示唆されています。
3. 生活習慣の改善:
◦ 喫煙や過度な飲酒は骨折リスクを増加させるため、禁煙・節酒が強く推奨されます。
◦ これらの非薬物療法は骨強度の維持・増大を促し、転倒など骨強度低下に依存しない骨折危険因子を回避する上で不可欠です。
薬物治療
薬物治療は骨粗鬆症による骨折リスクを低下させる中心的な役割を担います。
• 骨吸収抑制薬:骨の破壊を抑える薬剤です。
◦ ビスホスホネート薬(アレンドロネート、リセドロネート、ミノドロン酸、イバンドロネートなど):椎体骨折、非椎体骨折、大腿骨近位部骨折の抑制効果が証明されています。
◦ 選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM)(ラロキシフェン、バゼドキシフェン):主に椎体骨折の抑制に有効です。
◦ カルシトニン薬:骨吸収抑制作用に加え、骨折による急性疼痛の軽減に有効です。
◦ 抗RANKL抗体薬(デノスマブ):骨吸収を強力に抑制し、椎体、非椎体、大腿骨近位部骨折の抑制効果が示されています。
• 骨形成促進薬:骨の生成を促す薬剤です。
◦ 副甲状腺ホルモン(PTH)薬(テリパラチド):骨密度低下が著しい重症例などに用いられ、椎体骨折、非椎体骨折の抑制効果が顕著です。
• その他:
◦ 活性型ビタミンD3製剤(アルファカルシドール、カルシトリオール、エルデカルシトール):カルシウム吸収促進と骨代謝改善作用を持ち、骨密度上昇や骨折抑制効果が報告されています。エルデカルシトールは大腿骨近位部の骨密度上昇効果を示す初の活性型ビタミンD3製剤です。
◦ ビタミンK2薬(メナテトレノン):骨基質の質に影響を与え、骨折抑制効果が報告されています。
個別化されたアプローチ
骨粗鬆症の病態は多様であり、個々の患者の骨折リスクは、年齢、性別、既存骨折、喫煙・飲酒習慣、ステロイド薬使用、関節リウマチ、生活習慣病の有無、家族歴など様々な危険因子を総合的に評価して決定されます。この総合的な評価に基づいて、最適な予防・治療法を選択することが重要です。
例えば、重症度が高い、複数の椎体骨折がある、または骨密度が極端に低い患者には、骨形成促進薬を先行させ、その後骨吸収抑制薬でフォローする逐次療法が推奨される場合があります。また、ビタミンD不足がある場合には、ビスホスホネートに活性型ビタミンD3製剤を併用することで骨折抑制効果が高まる可能性も示されています。
さらに、**骨粗鬆症リエゾンサービス(OLS)**のような多職種連携システムは、健診から治療、リハビリテーション、介護まで一貫したケアを提供し、患者の服薬継続率や再骨折率の改善に貢献すると期待されています。これにより、個々の患者の病態やライフスタイル、治療意欲に応じたきめ細やかな治療管理が可能となり、健康寿命の延伸に繋がるのです